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CIA捜査官・タダアキー(オリジナル版)

朝霧朱音
協力 霧雨白蓮
炎樹
パロデイ元:「検非違使 忠明」
(『今昔物語集』本朝編より)

 西暦20XX年、日本。
 そこに、一人のCIA--米国中央情報局(舞台は日本なのに何故アメリカなのかっていうのはツッコまないでネ)捜査官がいた。
 彼の名はタダアキー(日本人なのがバレバレなんですけど!!)
 数年前にCIAに入ったばかりの、まだまだ新人である。
 彼は今日も、ここ・東京の街の安全を守るべく、巡回をしていた(ってあれ、CIAってこんな職業だっけ)。

「ふぅ〜。ここも異状なし、っと」
 六●木ヒルズの地下、ベンツだのリムジンだのという高級車が止められている駐車場の見回りを終えたタダアキーは、次なる場所へ向かおうと、駐車場を出ようとした。

 すると。

「--何かもうマジでありえなくね?」
 不意に、車の陰から若い男性の声がした。

「ん…?」
 タダアキーは不審に思って、声のする方へ向かった。

「たしかにぃー」
「マジでよ〜、ヨシズミの天気予報が外れるだなんてありえねーよなー。今日は曇りだとか言ってたからこのカッコで来たけどさー、実際晴れてんじゃん? みたいなー」

 すると、そこにいたのはヤンキー座りをした、ざっと五、六人ほどの青年たちだった。
 金や茶に染めた髪、耳にはピアス。半ソデ半パン(ダサッ!!)の服を着崩し、体のあちこちにアクセサリーをつけまくっている。
 ……どう見ても、おおよそこんな高級駐車場に似つかわしくもない輩たちである。

「おい、そこの君たち!」
 正義感の強〜い新米半人前捜査官・タダアキーは、こんなチンピラっぽい輩どもをタダで放っておくわけがなかった。
「あん? 何だお前」
 チンピラ衆の一人が、タダアキーに問いかけた。

「CIA捜査官の、タダアキーだ!!」

 CIA捜査官がそんな大々的に名乗っちゃダメでしょうというのはさておき、タダアキーはチンピラAの問いかけに素直に答えた。
「しッ、CIA!?」
「ヤバッ、ずらかるぞッ」
 チンピラ衆は、慌てて近くにあったバッグをつかみ、急いで立ち上がった。

「おい、君たち……そのカバンは、まさか……!!」
 タダアキーは彼らが持っているバッグを指差した。
「ヤベッ、バレた!?」
 チンピラどもは一斉に青ざめた。

「そのカバン……今流行りの『まいばっぐ』じゃないか!!」

「……は?」

 ……何と、タダアキーはCIA稀に見る超天然捜査官であった(ダメじゃん!!)。

「いや〜感心感心。君たちがそんな不健全な恰好をしてるから、てっきり何か悪いコトにでも首を突っ込んじゃってんのかと思ったら……悪いコトをするどころか、逆に環境にイイコトしてるじゃないか!! いや〜済まなかったな〜、疑っちゃって。さぁどうぞどうぞ、そこに座ってさっきのハナシの続きでもしてください」
 タダアキーの超天然っぷりに、チンピラ衆は開いた口がふさがらなかった。

「おっ、お前、バッカじゃねーの!?」

 まぁ、そんな窮地(違う意味で)から立ち直ったチンピラBが、何か一人で勝手に納得しちゃってるタダアキーに向かって罵声を浴びせた。
「ん? 何が?」
 自分が間違えていることにも気づいていない彼の、間の抜けた質問に、はっと我に戻ったチンピラCが叫んだ。

「こ、このカバンはなぁ…、ここにある高ッそーな車をピッキングして手に入れた宝石とか貴金属とかが入ってんだよバーカ!!」

「おっ、おいッ!!」
「てめ、何ネタバレしちゃってんだよ!!」
「あッ!! ヤベッ、俺全部言っちまった!! ヤベッ!!」
 何だかノリで全てをさらけ出してしまったチンピラCは慌てたが、もうそれは後の祭り。
 タダアキーは不気味にほくそ笑んだ。

「……フッフッフッフ。とうとう自供したな、このチンピラどもめが!! 俺…じゃなかった私がボケを一発かましたのは、全て君たちがやったことをポロッと自供させるためだったのだよ。ハッハッハ!!」

 勝ち誇ったように高笑いするタダアキーを、チンピラ衆は不審そうな目つきで眺めた。

「…てゆーかアイツ、さっき本気で言ってなかった?『まいばっぐ』って」
「何か負け惜しみっぽいよなー」

「ううううるッさい!! ととととにかくッ、君たちを現行犯で逮捕するッ!!」

 タダアキーはびしっと指を突き立てて叫んだ。

「にッ、逃げろォォォ!!」
「ずらかるぞッ!!」
 チンピラ衆は慌てて走り出した。

「待て--ッ!!」
 負けじとタダアキーも追いかける。

 すると、チンピラたちが銃を取り出し、乱射し始めた。

 ババババババ……

「うわぁっ!?」
 タダアキーは急な攻撃に一瞬ひるんだが、腰に差していた拳銃を取り出し応戦した。

 ズバババババ……
 チュンッ チュンッ

 しかし、チンピラ衆は五、六人なのに対し、タダアキーの方は彼一人だけ。いわゆる多勢に無勢というやつだ。
 タダアキーは車の陰に身を隠しつつ、駐車場の出口へと向かった。

 ズバババババ……
 チュンッ

「ぐあっ!!」
 チンピラの放った銃弾の一つがタダアキーの右腕に当たった。

「っ……」
 銃創から紅い鮮血がにじみ出る。
 タダアキーは痛みに耐えながら、上の階へと続く階段を駆け上がった。

 ダダダダダダ……
 タダアキーの後を追うチンピラ衆の銃撃は、止まるどころかますます激しくなった。

「くッ!!」
 バン!
 自由の利かない右手を左手でかばいながら、彼はチンピラ衆に一撃を見舞った。

「ぎゃっ!!」
 その弾がチンピラC…いや、こいつはAか? まぁいいや、チンピラ(ピーッ)の右腕に当たった。
 チンピラ(ピーッ)は痛みのあまりその場に崩れ込む。

「だ、大丈夫か!?」
 チンピラ衆は痛みに顔を歪ませるチンピラ(ピーッ)のもとに駆け寄った。

「今だ!」

 タダアキーはそれを見計らって、一気に階段を駆け上る。

「待て--っ!! このポリ公がっ!!」
「仲間の恨みを晴らしてやる--ッ!!」
 チンピラ(ピーッ)以外のチンピラたちが、大絶叫しながらタダアキーの後を追う。

「恨みってソレ、逆恨みじゃないか!! しかも俺、ポリ公じゃねーし!! CIAはポリ公+裁判官みたいなもんだ! フッフッフ、俺はあんなヤツらよりも上なんだよアハハハハ!!」
 ……タダアキーはハイテンションになりすぎて、少し(つーかかなり)気がおかしくなっていた。

 ババババババ……
 タダアキーが高笑いしているあいだにも、チンピラたちは乱射し続けている。

「バーカバーカ、お前らみたいな素人(シロウト)にこの俺が()られるワケ……」

 ゴンッ

 チンピラたちを罵るので精一杯だったタダアキーは、前方に扉があることに全く気がつかなかった。

「ぶほォ!!」

 タダアキーは腕からだけでなく、鼻からも出血させるハメになった。

 タダアキーはくらくらする頭をおさえながら、扉のノブを引いた。
 --すると、目の前には広大なコンクリートの地面とフェンス、そして向こうには雲一つない蒼穹が広がっていた。

「うわぁ……空が青い」

 タダアキーは思わず現実逃避しそうになった。

「--俺らみたいな素人(シロウト)()られるワケないって言ってたのは、どこの誰だったかなぁ? CIA捜査官サマよぉ」

 銃を構えたチンピラたちが、じりじりとタダアキーに迫ってくる。

「っ……」
 タダアキーもそれに合わせて後退する。

「ポリ公よりも上だっていうCIA捜査官サマも、しょせんはこの程度だったっつーことだよな?」
「……」

 かしゃんっ
 タダアキーの背中がフェンスに当たり、高めの金属音が辺りに響き渡った。

「っ…!!」
 もう、後ろはない。

 風が、ヒュォォォォと音を立てて吹き渡る。

 パッパー
 下の道路には、消しゴムみたいな車がぴゅんぴゅん走っている。

「--ここまでだな」

「アンタとはもーちょっと遊んでいたかったけど、ここでおしまいだ」
「俺、すっごく残念--」

 チンピラ衆の一人が冗談っぽく言うと、チンピラたちはアハハハハハと笑い始めた。

「--さよなら、CIA捜査官サマ」

 チンピラ衆の一人が、銃の引き金に指をかける。

 --バァン

 タダアキーの体が、ゆっくりと反り返る。
 彼の体はそのままフェンスを軸にしてくるりと一回転し、そのまま地上へ落下する。

 --かのように、見えた。

 バッ
 突然、何かが勢いよく開かれる音がした。

「パっ…パラシュート……!?」

 チンピラたちはフェンスのもとに駆け寄り、身を乗り出した。

 すると。

「ハーッハハハ!! CIA捜査官のこの俺が、何の防備もせずにいるとでも思ったか? フン、そりゃ甘いな!! こういうこともあろうかと、普段から無断で借りてきた防弾チョッキを着てるし、こちらも無断で借りてきた超小型パラシュートも常備してんだよ!! じゃーな、チンピラ君たち!! ハーッハハハ!!」

 タダアキーはそう言い残して、車が激しく行き来する道路の中へと消えていった。
 チンピラたちは、その光景をただただ呆れて見ているだけだった。

「このバカモンが!!」

 昼間のCIAオフィスに、怒号が響き渡る。

「何故そこで逃げてきた!! 防弾チョッキ着てるんなら、そのままチンピラどもを逮捕せんか、普通!!!」
「すッ、すいません!!」
 タダアキーは案の定というか何と言うか、上司に怒られていた。

「しかも防弾チョッキとパラシュートを無断で持ち出していただと!? CIAとしてあるまじき行為だぞ!!」
「いやでも、何の変哲もない日常生活の中にこそ危険が潜んでいるものでして……」
「バカタレ!! たとえそうだったとしてもお前みたいな新米がそんな危険に巻き込まれるものか!!」
「いや、だから今回がソレなんですけど」
「だからと言って新米が防弾チョッキやパラシュートを許可なしで使えるとでも思ってんのか!? コレ超高級品なんだぞ!! 新米ならこんなモノに頼らず、体当たりで行け、体当たりで!」
「え〜、だって何かカッコイイじゃないですか〜、防弾チョッキとかパラシュートって。何かト●・クルーズとかジャッ●ー・チェンみたいで」

「うるさい!! とにかく、防弾チョッキ弁償代(ピーッ)万円を数日中に用意しろ。そして、明日から一ヶ月の自宅謹慎、三ヶ月の減給とする。今日一日は、そこの廊下にでも立ってろ!!」

「え゛〜〜……」
 タダアキーが不服そうに言うと、上司はタダアキーの背中を持っていた書類でばしっと叩いた。

「ほら! さっさと行く!!」
「はいはい」
「『はい』は一回!」
「は〜〜い」
「返事は短くッ!」
「はいッ」

 ……こうして、新米半人前CIA捜査官・タダアキーの、長い長い一日は終わった。

*END*

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