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安部晴明VS蘆屋道満 第弐章 運命の対決!?

「……たく、次々と面倒なこと起こして……」

 --先日、播磨へ流刑となったはずの蘆屋道満が何故か自分の屋敷の庭に現れて、声高らかに叫んだ。
『対決だ!』
『えー……イヤだ』
『イヤだとはなんだ! --いいか、よく聞けよ。明後日、大内裏にて--天皇の御前で行う。それで負けた方は素直に勝った方の弟子になる。どうだ、受けて立つか』
『は……!? で、弟子!?』
『そうだ。本当にイヤならいいんだぞ。弟子になるくらいなら、最初から対決なんてしない方がいいかもな。--だが、我輩の申し出を断ったとあれば、あの偉大な陰陽師である安部晴明の名に傷がつくであろう。そんなに肝の小さい男だったとは……希代の大陰陽師とは所詮こんなものか、とな。さあどうする?』
 晴明は道満のイヤミにかっとなった。
 --これが挑発だということは、重々判っている。
 でも、ここで断ったら、ヤツの言うとおり、自分の名が--自尊心(プライド)が、傷つく。
『--いいだろう』
 道満はニヤリと笑った。
『それでこそ、我がライバル』

「で、どこをどうしたらこんなことに?」
 チュンチュン
 切迫した雰囲気の中、鳥の鳴き声だけが呑気に聞こえてくる。
 今、晴明は、今上帝をはじめとする野次馬たちがまだ始まらぬかとわくわくして見守る中、蘆屋道満と対峙する恰好で立っている。
 晴明はちらりと帝や道長がいる方向を一瞥した。
「というか何で大内裏なの。というか何で帝とかあの親バ……道長様とかが目を輝かせて観てるの。しかも何でみんなノリノリなの!?」
 そんな呟きもいざ知らず、意気揚々と司会の言葉が流れる。
「--今から、安部晴明対蘆屋道満の陰陽道対決を始める。さてご両人、準備はよいか?」
 司会はおなじみ、藤原道長だ。何故時の権力者が司会などという地味な役をしているのかとかは聞いてはいけない。もれなく扇が飛んでくる。
「はあ……まあ」
 晴明がイマイチ歯切れの悪い返事をすると、道満は皮肉な笑みを浮かべて晴明につっかかってきた。
「どうした、安部晴明。怖気づいたか?」
 晴明はその言葉にむっとした。
「何? そんな訳、あるはずが--」
「まず最初の対決は、変化の術だ。それでは先方の道満とやら、よろしく頼むぞ」
「って、オイ! 私の台詞がまだ--」
「では--始め!」
 晴明の言葉を遮った道長の司会で、勝負は幕を開けた。
「ははっ、今に見てろ安部晴明!!」
 道満は一笑して、数珠をジャラリと一払いした。
 庭に落ちていた手頃な石を四、五個掴み、呪文を唱える。
 たちまち石は燕に変じ、ひらりと軽快に滑空し始めた。
「おー!!」
 野次馬から、どっと歓声が上がる。
「ふん! こんなものっ」
 晴明が数回指を鳴らすと、燕は石に戻り、ぽとりと落下する。
「おお……」
 観衆から、感嘆の声が聞こえてくる。
 その声の間を縫って、道長は司会を続ける。
「えー、ではお次に……晴明!」
 名指しされた晴明は、懐からひらりと符を取り出した。
 何やらぶつぶつと呪文を唱えると、急に黒い雲が集まってきて、空が覆いつくされた。
「!?」
 観衆がざわざわし始めたのもよそに、晴明は呪文を続ける。
 とうとう大粒の雨までもが降り出し、ゴロゴロと雷の鳴る音がする。
 ピシャ--!!
 大きな稲光と共に、曇天に巨大な黒い影が姿を現した。
「何だ、アレは!?」
 観客が得体の知れない影に怯え惑う中、集団の中にいた一人の老人が大声で叫んだ。
「ま、間違いない……アレは龍じゃ!!」
「龍!? そんなバカな!!」
「……っ、ふん! 何のこれしき! 我の力なら、召喚した龍なぞすぐにでも……」
 と、大見栄をきって道満はジャラッと数珠を構えた。
 しばし呪文を唱えるも、龍は退散せず、雨脚も止むどころか強くなるばかり。
「おい、道満!! 早くこの雨を止めるのじゃ! まろは全身びしょぬれじゃぞ!!」
「お前、民間陰陽師の中でも凄腕なんだろ!? ぱぱっと龍を退散させろよ!」
 観衆からのブーイングが殺到する中、道満は早く止めねばと必死に呪文を唱えた。
「……ここまでか」
 晴明はぽつりと呟くと、もごもごと口の中で呪文を一唱した。
 途端、龍はふっと姿を消し、空もさあっと晴れ渡った。
 道長はその光景にしばらく見惚れた後、ごほんと咳払いをして司会進行をした。
「むう、これはどちらも素晴らしい! では、決着は次の対決で!」
 道長がばっと手を広げると、一つの箱を持った侍従が現れた。
「では、最後に陰陽師の本業である卜占(ぼくせん)対決! この箱の中身を当てられたほうの勝ちだ!」
 まずは道満が占う。
「蜜柑が十五個だ」
 道長はこの答えを聞いて、むうとうなった。
(確かに、中には蜜柑が十五個……これは、またしても引き分けか?)
 次に、道満の占いが終わるまで別のところで待っていた晴明が出てきて、占った。
「鼠が十五匹です」
「!?」
 道長がはっと息を呑む。
 道満はしめた、と思った。
(クク、中身は蜜柑に決まっているだろう。希代の陰陽師と言われたあの安部晴明も、所詮この程度の実力だったのだ。この勝負、我が得たり!)
「……っ、では箱を開けてみましょう!」
 侍従はぱかっと箱を開いた。
 すると、たちまち中から十五匹の鼠が飛び出し、わらわらと道満に群がり始めた。
「うわっ!? な、中身が鼠だと……!! バカな、我の卜占では確かに蜜柑が十五個と……」
「ふん、迂闊だったな。私が占う直前に、箱の中の蜜柑を鼠に変えたのだ」
「きっ……貴様ッ……うわっ、入ってくるでない!!」
 道満の袈裟の中に鼠が侵入し、わたわたと慌てる道満の様子を、晴明はうっすらと笑みを浮かべて眺めていた。
「晴明! おい、あべのせーめー!! 聞いてるのか!?」
 庭の方から、何やら騒々しい声が聞こえる。
「うるさい。今は仕事中だ。後にしろ」
「せー・いー・めー・い!! ちょっとこっちに来い!!」
「だから仕事中って言っているだろう。子供かお前は。それにお前、先の対決で私の弟子になったんだろう。師匠と呼べ、師匠と。呼び捨て禁止」
「晴明!! 聞こえてないのか!? こんなに大声で喋っているのに聞こえないとは、お前もヤキが回ったな! 今年で何歳になるんだったかな!?」
 晴明のこめかみに、ぴくんと青筋が一本立った。
「ああ!? 今何と言った!?」
 晴明は声を荒げて庇に出た。
「我が貴様の弟子になってからはや一月。もうそろそろ修行の成果が出てもいい頃だ。もう一度対決しろ」
「対決? この前したじゃないか」
「だから修行の成果を見るためにもう一度対決しろとと言っているだろう。とっとと書物片付けて庭に出ろ」
「それが師匠に対する口の利き方か? それに私はもうじき唐(中国)に留学するのだ。お前になぞ構っている暇はない」
「唐!? 何のために」
「もちろん修行のためだ。更なる陰道の術の向上にな。あちらには伯道上人という凄腕の仙人がいると聞く。その方に弟子入りし、我が腕を磨いて戻ってくるのだ」
「ということは、しばらく不在ということか!?」
「ああ」
 道満は晴明の返答を聞いて、ニヤリとほくそ笑んだ。
 しかし、それは一瞬のことだったので、晴明は全く気づいていない。
「それなら、なおさら勝負しろ。今一度手合わせ願えるかな? 師匠」
「えー……ダルい」
 --彼らの対決は、まだ終わりそうもない。

あとがき

「今度の話は短くしよう!」と意気込んだものの、見事に長くなってしまった今作。
 や、だってこのサイト、コンテンツ異常に少ないんでしょう? いいじゃないですか。駄文が一つ増えるだけです。
 駄文駄文って言ってもですね、この話はマジメに書いたつもりなんですよ。一応。
 ちゃんと人間が主人公じゃないですか!! 超人的パワー使ってますけど。
 ちゃんと調べて書いてるんですよ!! ところどころ偽造してるけど。
 そう、この作品は国民的ヒーロー(何か違っ)、説話集の「今昔物語集」「宇治拾遺物語集」「十訓抄」をはじめとした古今東西(や、東西はナイ)の話に出没する、あの希代の陰陽師--安部晴明が主人公なんですっ!!(何故か興奮)

 ……ここで皆様に謝らなければならないことが一つ。
 キャラをボッコボコにしてすみませんでした!!
 皆様のイメージとは大分かけ離れてますよねこれ。何このダメダメっぷり!! どうして!? 私こんな子に育てた覚えなんてないわ!!(お母さん?)
 ……ギャグを混ぜるにはこうするしかなかったのです。
 何故ムリにギャグ混ぜるかって? そんなことは訊かないで下さい。私の無能がバレてしまうから!!
 クールビューティーなイメージにするはずが……これ、ただの腹黒? と訊きたくなるようになってしまいまして……うん? どこで間違ったのかな? やっぱり道長へのタメ口のあたりかな?(それってものすごく序盤じゃん)

 えーと、この話の下敷きになってるのは、
  • 『宇治拾遺物語集』(鎌倉時代初期成立の代表的な説話集)の中の一話、「御堂関白の御犬晴明等奇特の事」 (『十訓抄』(鎌倉時代中期の説話集)にも同様の記述あり)……第一章
  • 『蘆屋道満大内鑑』(安部晴明の母と言われる狐の「葛の葉」が主人公である人形浄瑠璃、別名・『葛の葉』『信太妻』)の一部……第二章
 です。元の話と違う部分が多々ありますが、そこは……総スルーの方向で!!

 私自身、安部晴明というか陰陽道が好きでして、いつか彼を題材にして書きたいな〜と思っていました。 
 安部晴明の話……というと、やっぱりライバル蘆屋道満との対決か!? その話というと、道長の呪詛事件と御前対決か? じゃあそれでいこう! というカンジで書き始めました。
 しかし前者の話でもう既に文章量が多くなってしまったので、御前対決は切ってしまおうかと思ったのですが……
「ヤバッ!! よく見たら晴明が術使って道満とドンパチやってないじゃん!!」
 どうしても彼に術を使わせたかったので、ムリヤリ二部立てにしました。そしたら一部と二部の文字数の差が極端になってしまったという……やっぱりつなげたほうがよかったですかね……
 まあ、恰好良く書こうとして何故かこんなグダグダ&ダメダメに仕上がってしまった「安部晴明VS蘆屋道満」ですが、少しでも楽しんでいただき、また安部晴明や蘆屋道満、陰陽道などについて知っていただければ幸いです。まあそんな人いないでしょうけど!!

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