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ジェイソンとキンニクの事件簿

ジェイちゃん

 親ゆずりの骨だらけで、子供の頃から損ばかりしてきた。
 筋肉がなく台に固定されているため、長距離移動ができず、オレに運ばせた。それを改良しようと台にモーターをつけてみたものの、動けるようにはなったが、ブレーキやハンドルがなかったので、廊下の突き当たりに突っ込んでばかり。

「--こんなのでいいか? ジャック」
「ジャックじゃねーよ。ジェイソンつってんだろーが!! ……ってか何ですか? この文章」
「ほら、アレだよ。お前の紹介文章だよ」
「ってかコレ、絶対『坊ちゃん』の冒頭パクってますよね……」
「何だよ。この小説のタイトルだってそのパクリだろーが。気づけよ、ジュディー」
「ジュディーじゃねーよ! しかもそれって女の子の名前じゃねーか!!」
「そんなにカリカリすんなよー」
「誰がそうさせてるか判ってんのかオメー!」
「さーね。誰だろーね〜?」
「お前〜……」
「ところでさ、この文章どう思う?」
「どうって……ダメなところばっかですよ。まず『親ゆずりの骨だらけ』ってところ。僕の親って一体何者?」
「何者って……お前と同じ人体骨格模型じゃないのか?」
「そんなわけないじゃないですか。模型から模型が生まれるわけないじゃないですか」
「内蔵サンは模型だけど、模型(ないぞう)が出てくるぞ?」
 内蔵サンとは、首から足のつけ根までの模型で、胴の部分がぱかっと外れて内蔵が取り出せる。女言葉を使っているが、実は男だ。
「あれは本人の所有物でしょうが。所有物っていうかもう、あの人の身体の一部でしょーが」
「だっけ?」
「…バーカ」
「それじゃ何者なんだ? お前の親って」
「多分中国のとある工場で働く家族思いのおっさんじゃないですか? 僕こんな名前で中国製みたいですし」
「誰だよ……」
「で、次に『子供の頃から損ばかりしてきた』って言ってますけど、その後の『筋肉〜ばかり』はつい最近の話じゃないですか。しかも僕は生まれたときからずっとこの見た目ですよ。生まれたときから成人男性の骨格なんですよ! 子供の頃なんてないと思いますが」
 ヒューッ。
 キンニクがあらぬ方向を向いて口笛を吹いた。
「お前な……」
 僕は怒りを通り越して呆れかえってしまった。
「そして『筋肉〜運ばせた』ってところ。『筋肉〜できず』まではいいですけど、その後の『オレに運ばせた』ってところが……」
「ん? 何か悪いところがあるか?」
「アリアリですよ。要するにお前が損をしていたって言ってるじゃないですか。何自己中心的な紹介してるんですか! つーかお前が依頼してきたから解決する代わりに運んでもらったのにこの言い草は何!?」
「だってオレが書いたんだも〜ん♪ オレが書きたいように書いていいじゃん」
「お前なぁ……」

 ……キンニクの紹介はあてにならないので、僕が自己紹介する。
 僕は人体骨格模型のジェイソン。
 この学校が建ったくらいからずっとここに居座っている(……んじゃないかな)。
 学校の七不思議や『13日は金〇日』とは一切関係ないので、決して誤解しないよーに。
 ちなみに、さっきヘンな紹介をかましてくれたキンニクは、本名を『人体模型キンニクバージョン』と言っ…たと思うんだけどなあ……まぁそれはいいとして、キンニクは僕にとって永遠の宿敵っぽい存在だ。さっきもそうだったように、いつも僕の名前を間違えるというムカつく奴だ。

「……というか」
「何だジェイミー」
「ジェイミーじゃねーよ! ……お前は何で僕の紹介文なんか書いちゃってるんですか?」
「日頃のご苦労に感謝してだな、お前のために紹介文を書いてやったんだよ」
 えっへんと胸を張って威張ってみせるキンニク。
「そんな威張るほどのことやってないくせに……ってかお前、『この文章かいてやったんだから、オレの依頼を受けろ』な〜んて言い出すんじゃないでしょうね」
 ギクッ。
「そっ、そんなことないよジュリア君」
「ジュリアじゃねーよ」
「じゃあジュリアン」
「僕は日本史に出てくる少年使節団か!? 中浦ジュリアンかっ!?」
「そう、マルコメ・ジュリアンだよ」
「っておめー、ちゃんと言えてねーじゃねーか!! 苗字的ポジションの部分が一ミリもかすってねーよ!!」
「んじゃあマルコメ」
「どうしたらそんな言葉(ワード)が出てくるんだよ! 中浦ジュリアンと何の接点がっ……あっ、まさかさっきの『マルコメ・ジュリアン』からかっ!?」
「ボーズ」
「マルコメからかよ!! ってかもう連想ゲーム化してんじゃん!」
「オッサン、ジェイミーの親、ジェイミー」
「どーゆう連想だァァッ!! 何で僕にたどり着くッ!! ってかジェイミーじゃねぇぇぇぇ------っ!!」
「ジェイミー、女、ジュディー」
「いい加減にしろーっ!! ……というかお前、何話題そらそうとしてんですか」
「え?」
「『「この文章書いてやったんだから、依頼を受けろ」って言い出すんじゃないだろうな?』って訊いたら、お前ギクッってしてたじゃないですか。図星じゃないんなら、何だって言うんですか?」
「うっ……ジュディー、ジュディー、ジュディー………」
「だから話をそらそうとすんなっ!! しかもジュディーから一歩も進んでねぇっ!!」
「ジュディー、十字架、イエス・キリスト」
「ってか進んじゃったよ! しかも何か方向変わっちゃったよ! ……あれ、ジュディーと十字架って何の関係が……?」
「えっと……それは昔、神の信託を受け、戦争で母国フランスの危機を救って英雄になったけど、最後に魔女だとウワサされて十字架にかけられ火あぶりの刑に処せられたという薄命の少女……」
「それはジャンヌ・ダルクだっ!!」
「あっ、そうか! クッソー、『ジェイミー、女、ジュディー、少女、ジャンヌ・ダルク、十字架、イエス・キリスト』っていけばよかったのか!」
「何で一旦ジュディーを経由する必要があるんですか!! しかもまた話題そらそうとしてるし!!」
「えーっと……イエス・キリストの次は……」
「依頼したいんなら早く言えよ、バカ!」
「……え?」
僕の思いもよらぬ発言に驚いたのか、キンニクは目を丸くした。
「そんな遠まわしに遠まわしに言おうとしなくても、最初からそう言えばいいじゃないですか! そっちのほうがよっぽど建設的です! あーもうまどろっこしいったらありゃしない!」
「……ジェイソン、まさかお前っ……」
「ってオメー、僕の名前ちゃんと覚えてんじゃねーかーっ!!」
「ぐはぁっ!!」
僕の骨ばった(ってかもう骨だらけの)拳がキンニクの右頬にめりこんだ。
「ジョ、ジョージ…お前、そんなに力強かったっけ……?」
「誰がジョージだァァ!!」
「ぐえふっ!!」
またまた僕の繰り出した拳がキンニクの右頬にクリティカルヒットした。
「いてて……すごい力だな、お前」
「最近発見したんですけど、微弱な力でも骨ばっていれば相手に与える衝撃は強いみたいなんですよね」
「いやこれ微弱な力じゃないだろ……」
「僕はお前みたく筋肉があるわけじゃないですから? こんなか弱い力しか出せないというか?」
「か弱くねーだろコレ……」
「何か言いましたか?」
「いっ、いいえ!」
「それでよし」
「……ってかお前、キャラ変わってね?」
「何処が?」
僕はふいとあらぬ方向を見て答えた。
「お前な……」
「……あ」
「どうしたジェイソン」
「指の骨にヒビが入ってる」
「ウッソー! ってかそれ、もしかしてさっきのパンチの影響じゃねーのか!?」
「……みたいですね」
と呟き、僕はキンニクを一瞥してニヤリとほくそ笑んだ。
「キンニク、お前のせいで骨にヒビが入ったじゃないですか!」
僕は急に声を張り上げて叫んだ。
「オっ、オレはやってねぇぞ!! お前が勝手にオレを殴って作ったケガじゃん!」
キンニクは、やってもないを被せられ、必死で弁明しようとしている。
「犯人はみんなそう言うんだよォ〜」
「何でお前容疑者を自白させるときの警官口調なんだよ」
「……慰謝料だ」
「はァ?」
「お前に慰謝料を要求する!」
「はァァァっ!? 何だよお前っ! 詐欺か!? 慰謝料詐欺のつもりかソレっ!!」
「僕、僕だよ。え? 僕だってば。うん、そうそう、あきらだよ。うん、そう、僕。それでさ、僕さ……」
「それはオレオレ詐欺じゃん! ってか僕僕詐欺? どっちにしろ古っ!!」
「とにかく明日までに、僕の銀行口座に100万円振り込め!」
「振り込め詐欺っ!? ……というかさ、オレとお前、ボケとツッコミ反転してね?」
「あー、やっぱボケは疲れるなー。やっぱり僕はツッコミで行こっと」
「ってオメーわざとボケてたの!?」
「もうツッコむなキンニク。ハッキリ言って、合ってないですよ」
「お前がボケてたから仕方なくツッコんだんじゃねーか、ジン」
「ジンって誰だよ! ……うん、そんな感じですね。これからもそういう風にボケてください。僕が容赦なくツッコみますんで」
「えぇー? 容赦なくツッコむの? ちょっとは容赦してくれよ〜キンニク」
「ってそれはアンタの名前じゃないですか。えらく新鮮なボケですね」
「でな、キン○クマン。お前の言ったとおり、依頼したいコトがあんだよ」
「わー。著作権スレスレ用語できましたねぇ。大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。つか、もっと容赦なくツッコめよ。ヌルイぞ」
「え? さっきは容赦しろって言ったクセに」
「とにかくいつもどおりで」
「いつもどおりって何ですか! 僕がかなりのツッコミだってことを示唆してますよね、ソレ!」
「ところでさァ。その依頼ってのはさァ、新しく入ってきた模型に色々なことを教えてほしいってゆーコトなんだけどさぁ」
「はぁ!? 何で僕が!?」
「ま、頼むぜ」
 ぽん、と僕の右肩を叩きながら軽々しく言ったキンニク。
「何!? 何ですかこの手!? しかも軽率すぎますよその台詞!! アンタにとっては『フッ……決まった』とか思っていても、ハタから聞いたら全然決まってませんよ!」
「新入りはどこにいるかって? あぁそれは2階の廊下の突き当たりにある物置きの中だ。くれぐれも迷うなよ、キリンの肉」
「んなこと訊いてねーよ!! ってかキリンの肉ってキモチワルイ! まずそんなもの食えませんよ!」
「新入りには今日の15時から講義が始まると指示しておいたから、早く行けよ。今は14時59分だからな」
「はァ!? あと1分で行けって!? いくらなんでもソレ無理ですって!!」
ここは3階の理科Ⅲ教室の中だ。1分で1階分の階段を降りろと言われたら……普通の人ならまだ降りることができても、骨だらけでしかも台つきの僕が降りれる確率なんてほとんどない。
「お前、この前つけてたモーター、まだつけたままか?」
「え? ま、まぁ、そうですけど……」
去年の4月、僕は他模型(たにん)に頼らないで移動ができるように、自分が乗っている台にモーターをつけた。でも……
「スイッチ入れるぞ」
「え」
ぷちん。
ウィイイイイイ------ン……
「ちょっ……それ直進しかできないんですよ! 角も曲がれないのにましてや階段なんてっ……」
シャ----ッ!!
「うわぁぁぁぁ------っ!!」
僕は2階へ通じる階段めがけて勢いよく走り出した(っていうか走るハメになった)。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
「って何お経唱えてんのォ!? 勝手に殺さないでくださいよ! ってかアンタ浄土宗または浄土真宗だったの!?」
そう叫んでいる間にも、僕(のモーターつき台)はどんどん階段を下りていく。……というか落ちていく。
ガンガンガンガン…… しかもものすごい音を立てながら。
僕は思わず目をつぶった。
ガタン!
「かっ……階段が…終わった! よし、あとは直進するだ……」
ガッシャ-------ンッ!!
2階まで降りきったと思ったら、2階と3階の間にある踊り場だった。
僕は踊り場の壁に突っ込んだ。
「うぅ……目ェ開けとけばよかった……」
後悔しても、あとの祭り。
「いててて……あ、そうだ! キンニクに助けてもらおうっと」
僕はそんな名案を思いつき、振り返ってキンニクに助けを呼ぼっ……
「……って、アレ?」
見ると、キンニクは忽然と姿を消していた。
「………」
僕のこめかみにピキッと青筋が立った。
握り拳がプルプルと震える。
「にっ……逃げられたっ……!!」

「…ったく……逃げやがって。次見かけたらタダじゃ済ませませんからねっ……」
僕はぶつぶつと不平を漏らしていたが、仕方がないので残りの階段を降りようとスイッチを入れる。
ぷちん。
「なるべくこの方法は使いたくないんだけどなぁ……」
ウィィィィィ--------ン……
シャ------ッ!!
ガンガンガンガン……
僕はどんどん階段を降りてゆく。
ガタン!
最後の段を降りて、モーターはますます速度を上げて直進しっ……って、アレ?
「いや、ちょっと…何かコレ速度上がってません!? ちょっ、待ちなさいって!!」
って一生懸命ツッコんでもやっぱり止まらない。
「うわっヤベッ、壁に激突すっ……」
ガッシャアアアアア-----ンッ!!
「いででで……」
やっぱり壁に激突した。
「……ジェイソン?」
ふいに、背後から聞き覚えのある少し高めの声がした。
僕はその声に驚き、振り返った。
「なっ…内臓サン!?」

「え? 新入りの教育?」
「そうなんですよ。ったく、キンニクはいつも急に重要な依頼(たのみごと)をしてくるんです……」
「…新入りの教育って、私とキンニクがやるように指示されていたハズだけど……」
「え?」
そんなの聞いてない。初耳だ。
もしかして--
ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「あいつっ……! 自分のやりたくないことを僕に押しつけたんですねっ!!」
「そ、それは酷いわ……でも、キンニク本人はここにはいないようだし、もう時間がないわ。--だからジェイソン、あなたが新入りの教育をしてくれないかしら?」
「……内臓サン、何で自分が提案している間に僕の台とあなたの身体を縄でつないでるんですか……?」
僕の質問はさらっとスルーして、縄を結び終えた内臓サンはすっくと立ち上がり、言い放った(いや、足ねーけど)。
「さ、行きましょ」
「えぇぇぇぇぇ-------っ!? ちょっと……そんな急に言われても! 僕にも用事ってものが」
「行くわよ!」
ピッ。
「あっ!!」
内臓サンは、僕の台についているスイッチをためらいもなく押した。
ウィィィィィ--------ン。
シャ-------ッ!!
「キャーッ!! たっのしー!! でも私の底がすり減るーっ!! でもいいやアハハ」
「ダメじゃん!! すり減ったらヤバイじゃないですか! ってか内臓サン、キャラ変わってね?」
どがっしゃ------んっ!!
「うぎゃ-----っ!!」
……僕は内臓サンもろとも廊下の突き当りに見事に突っ込んだ。 「けほっ……もうさんざんですよコレ……一日に何回衝突したら気が済むんですか……けほっ」
「ジェイソン! 着いたわよ!」
「よっこらせっ……」
僕は内臓サンの言葉を受け、おもむろに立ち上がろうとした。
すると。
「だっ、大丈夫ですかっ!?」
誰かが僕に近寄ってきて、立ち上がるのを手伝ってくれた。
「あ…ありがとうございます。世の中には、こんなに優しい模型(ヒト)がい……」
僕は彼にお礼を言おうと思い、顔をあげた。
すると……
「ってアンタ、キンニクじゃないですかっ!!」
そこには他でもない、さっき僕に依頼を押しつけたキンニクが立っていた。
「な、何ですか? 模型(ヒト)違いですよジョン先生(裏声)」
「誰だァァァジョン先生って!! 僕はジョンじゃねーって言ってんだろがっ!! やっぱアンタキンニクだな! そーゆー間違いすんのはキンニクくらいしかいませんもん!」
「僕は人体模型キンニクバージョン2号ですよ。あなたは一号様と勘違いなさりやがってるんじゃないですかコノヤロー(裏声)」
「うわっ! 一人称が僕ってキモッ!! 似合わねー! しかも僕とキャラ被るし! それに何で裏声なんですかっ!!」
「僕はもともとこんな声ですよぉ?(裏声)」
「(裏声)って語尾につけてる時点で裏声じゃないですか!」
「……ちっ、バレたか。うまくカモフラできたと思ったのに」
「出来てねーよ」
僕はキンニクのバカな一言に思わずツッコんでしまった。
「あ、あの〜……」
すると、一個(ひとり)の模型が僕に恐る恐る尋ねてきた。
「どうしましたか?」
僕は笑顔で訊き返した。
「出たっ、営業スマイル。キモッ」
「何か言いましたかキンニク」
僕はキンニクをにらみつけた。
「い…いや、何も」
僕の視線に恐怖を感じたのか、キンニクは表情をこわばらせた。
「あ、今のことは全っ然気にしなくていいですから」
僕は優しく模型に語りかけた。
「あ……はい」
模型(かれ)は初々しく返事をした。
「あの、そろそろ授業を始めませんか? もう予定の時間を10分も過ぎているんですけど……」
僕は彼に指摘され、とっさに近くにあった時計を見た。
15時10分--確かに10分過ぎている。
「先生! 彼の言うとおりです。早く授業を始めてください(裏声)」
キンニクがまたもや裏声で発言してきた。
「誰のせいでこんなコトになったと思ってるんですか! 罰としてアンタは廊下で立ってなさい!」
「先生! もう廊下で立ってますぅ」
ここは2階の廊下の突き当たりにある物置きの中--物置きとはいえ、結局は廊下の一角についたてを立てて物置きにしているにすぎない。
「……そうでした。じゃあ始めましょうか!?」
僕はこめかみに青筋を立てながら授業を開始したのだった。

「えーと、まずは出席をとりまーす。1番、アリエさーん」
「はーい」
「2番、イシスさーん」
「はぁい」
「3番、ウルトラ○ンさーん」
「シュワッチ」
「4番、カイさーん」
「はいっ」
「5番、キンニク」
「えー。『さん』つけろよー」
「6番、トー○スさーん」
「7番、の○太さーん」
「は-------い」
「8番、ヘリオルさーん」
「へいっ」
「………」 「どうしたの? ジェイソン」
急に黙りこんだ僕を心配してか、内臓サンは優しく声をかけてくれた。
「こっ……この名簿、ふざけてるんですかっ!?」
ばしっ
僕は名簿を勢いよく床に叩きつけた。
「なんだ。今更気づいたのか、ジョニー」
「ジョニーじゃねぇっ!!」
「……まぁ、ふざけていると言えばそうよね。放送禁止スレスレの、著作権が絡みそうな名前ばかり……」
「………でも、返事が返ってきましたよね……?」
僕と内臓サンは恐る恐る顔を上げた。
そこに広がっていたのは、違う意味で筆舌しがたい--一言で言えばカオスな光景であった。
「ねぇ〜僕ドラ○もんに『頭がものすご〜くよくなる方法』を教えてもらえるって聞いてきたんだけど……まだ教えてくれないの〜?」
「ポーッ」
「ていうかコレは騙されたの? 僕はあの青ダヌキに一杯食わされたの? ねぇどうなの?」
「ポーッ」
「ねぇ君、さっきからポーしか言わないけど確か喋れたよね? それにウルトラ○ン、何でこんなところにいるの? 地球の平和を守ってなくていいの? そして僕のキャラが本来のものと違うと感じるのは僕だけ?」
「シュワッチ」
「………っ」
開いた口が塞がらなかった。
「本気であの彼らなんですか!? テレビでお馴染みの………」
ぱんぱんっ
突然キンニクが手を叩いた。
「? 何ですかキンニク」
「やぁ〜ゲストのみなさんお疲れ様でした〜」
「……は?」
キンニクがわけの判らないことを言ったかと思うと、著作権スレスレ組は一斉に立ち上がり、身支度を始めた。
「えっ!? えっ??」
僕は状況を掴めず慌てふためいた。
「本日のお仕事はこれにて終了ですぅ。お給料の方は後ほど係の者がお渡しいたしますので、玄関でお受け取りになってください。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました〜」
「ねぇ? 頭がものすご〜くよくなる方法は?」
すかさずの○太がキンニクに尋ねる。
「それはドラ○もんの流したデマですぅ。の○太様には他の方の倍の給料を差し上げますので、どうかおとなしくお帰りになって青ダヌキをお責めになってください。くれぐれも本校を訴えないでね〜v」
「ちぇっ。後であいつのドラ焼き食って、押入れにネズミを放ってやる」
と呟きながら、の○太は渋々帰っていった。
「ちょっ……キンニク?」
「ん? 何だジニー」
「僕はロンの妹かァァ! ……じゃなくて、何で彼らは来たんですか!? アンタが雇ったの!? そして何でもう帰っちゃうの!? ゲストって何!?」
「え〜、ゲストはゲストだよ〜。お前に意欲出してもらうために超豪華なゲストをお呼びして、最初の15分だけ授業に出てもらったんじゃないか〜。せっかく高いギャラ払って雇ったのに、お前が早く来て授業しないから出席とるくらいまでしかいてもらえなかったじゃねぇかよ」
「『できなかったじゃねぇかよ』じゃねーよ!! 何ムダなことしてんだよ! あんなメンツじゃモチベーションも何も上がりませんよ!! しかも10分遅れたのはアンタが授業始まるギリギリ前に僕に押しつけるからでしょーが!! もっと早く言ってくれれば、みなさんにご迷惑をかけずに定刻に始められたというのにっ……」
「……じゃあ、早めに言っとけばお前はきちんと定刻どおりに授業を始めてくれたってコトだな?」
「……? えぇ、さっきからそう言って……」
「きゃっほおい!! 交渉成立ぅ!!」
「はァ!?」
突然はしゃぎ始めたキンニクを見て、状況の掴めない僕は怪訝な顔をした。
「え、だってお前さっき早めに言っとけば授業をきちんと定刻どおり始めてくれたって言ったじゃん。ていうことは、授業はお前が全部やってくれるつもりだったってことじゃん。つーことは、欠けちまったけど今からでも授業をやってくれるってことじゃん。要すんにオレがやんなくてもお前が授業してくれるってことじゃん、きゃほう!」
「えっ、ちょっと待ってください! 今さっきの台詞はそういう意味で言ったんじゃっ……」
「つーことで、オレはここらでトンズラこかせてもらうからな。あとは夜露死苦(ヨロシク)。健康を祈るぜ。あっでぃお〜す♪」
と言い残し、キンニクは走り出す。
--しかし。
「……そこは『健康』じゃなくて『健闘』でしょう……?」
「ぎゃああ!?」
僕はズラかろうとするキンニクの前にずーんと立ちふさがった。
「逃げようったって、そうはいきませんよ……?」
僕は自分でも判るくらい不気味な笑みを浮かべ、内臓サンと僕を連結していた縄をおもむろに手に取る。
「なっ……何するつもりだジェイソン!! そんな長い縄じゃターザンごっこだってできないぞ!!」
ぽいっ
すぽっ
しゅるっ
「!?」
僕は先を大きめの輪にした縄をカウボーイのようにキンニクに向かって投げつけ、キンニクを捕縛した。
「ふふ……これで逃げられないでしょう……?」
「ジェイソン!?」
そして余った縄を彼の胴体にぐるぐると巻きつける。
「ふぅ。これで授業に集中できますね」
「このドS! 鬼畜!! Mのような顔して実はSなんて全く萌えねーぞ!!!」
「誰がMのような顔だ!!」
「だって皮膚も筋肉もなくて骨むきだしじゃん。それにヘタレじゃん。やられキャラじゃ〜ん」
「誰がヘタレだやられキャラだ!! しかも何その超理論!!」
僕はひととおりツッコみ終えると、ため息をつき、くるりと新入りの方を向く。
「いつまででもこんなことしてたらキリがないです。--さて、授業を始めましょうか」

「えー、つまり理科模型には人前ではおとなしくしておかなければならないという掟があって……」
「ジェイソン先生!」
と、元気よく手を挙げたのは、先程僕に授業を始めないかと言ってきた、オウムガイ模型のカイ君だ。
「何ですか、カイ君」
「人間を驚かせたり、怖がらせたりしてはいけないから、僕たちが話したり動いたりするのを見られてはいけないんですよね?」
「ええ、そうですよ。それが何か?」
「では、何で理科室の先生には僕たちが動けることがバレてるんですか?」
「あの方は特別ですよ。僕たちがここに来たときからずっとそのことを知ってたようですし……」
「え、ジェイソン先生って55歳(推定)ですよね? じゃあ、理科室の先生って一体何歳なんですか?」
「……アレ?」
僕はカイ君に言われて初めて違和感に気づいた。
--55年(推定)前、この学校に来たとき、先生は確かにいた。そのとき彼は40代くらいのオッサンだった。
彼はそれから全く変わっていない。少し白髪が増えたかも、と思うくらいで、年老いた感じはどこにもない。55年(推定)も経つのに、全く(・・)。 「……おかしい……全く老いも若返りもしないなんて……もしかして先生は、妖か--」
「ちょっと待ったァ!」
「キンニク!?」
突然僕の言葉を遮ったキンニク。
僕は瞠目した。
「何ですか!? 急に口を挟んで……!」
「ダメだ! 先生の正体についてそれ以上言及しちまったら--オレたち動けなくなってしまいには呪い殺されちまうよ!!」
「はぃい!? 何てホラー!?」
「この世にはな、知らなくていいこともあるんだよ。オレたちがどうして動くのかとか、先生の正体とかな」
「わかった!! 作者がきちんと設定してないからでしょ!!」
ギクッ。
「だからあとで矛盾が生じて悶絶するハメになるんですよ! ただでさえ自分の書いた作品を一年ちょっとのブランクで忘れてしまうくらいなのに……だからちゃんと設定集書けって言ってんのに……」
「やめろジェイソン! これ以上言ったらこの作品が強制終了されちまうぞ!」

ジェイソンとキンニクの事件簿FILEⅤ ジェイちゃん
多分つづく!
次回の更新を待て!(っていうかただ単にまだ書きあがってないってことだよね!)

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