Home > Novel

ジェイソンとキンニクの事件簿

伊豆の(オトリ)(スパイ)大作戦〜

「……というわけだ。今日から君たちはこういうところで生活していくんだぞ。じゃ、何かあったら気軽に声をかけてくれ」
「…………って間の説明とか全部フッ飛ばされてるじゃないですかァァァ!!」
 僕はムチャクチャな省き方に青筋を立ててツッコんだ。
「仕方ないだろジェイク。紙幅の関係で割愛されたんだからよ」
「ジェイクじゃねえ!! し、紙幅とか言うなぁぁぁ」
「じゃあペ-ジ数アル」
「あんまり変わってないしぃぃぃ」
「このままだとこの台詞もカットされるネ。さ、早く半分サンをとっ捕まえて帰るアル」
「ちょっと待ってくださいよ!! それじゃ今回のタイトルはどうなるんですかっ!? まだ全然核心に迫れてないじゃないですか!!」
「大丈夫だ。何かうっすらそれっぽいじゃん。素巴伊学園って」
「それだけぇぇぇ!? 何ですか『うっすらそれっぽい』って!! 全然理由になってません!」
「じゃ、そういうことで。--ジェ-ン、あとはよろしくな」
「は? よろしくって……」
「--(ルゥエイ)によって君もしくは君の部下が捕らわれる、あるいは殺されることになっても当局は一切関与しないのでそのつもりで--だぞ。てわけで、オレは逃げる!!」
「はあ!?」
 キンニクはそう言い残すと、ぴゅ---っと一目散に逃げていった。 「え、ちょっと……ええええええっ!?」
「おや? キンキク君は?」
「い……え-と、急用思い出したようで……」
「……そうか……残念だな」
「……………」
 気まずい沈黙が流れる。
「え、え-と……あの、ミスタ-・ハ-フはどうして伊豆へ?」
 僕は興味本位で訊いてみた。
 もし彼が本当に半分サンだったら、どうして僕たちの学校なんか飛び出して、こんな遠く離れた学校なんかに来たのか--。
「ああ、……とても言いづらいことなんだが……その、私は先日……痔を患ってだな………その療養で来たんだ」
「へ、へえ……痔……ですか。大変ですね〜」
 僕の胸がチクリと痛んだ。
(そ、それって僕がつけた傷……なんですよね〜)
 僕は半分サンに向かって心の中で謝罪の言葉を繰り返した。
 そう、これは先日、半分サンによってとある事件が起こされ、それを解決するため僕はとある計画をたてたのだが、それで「十三日は金○日」のジェイ○ンの恰好をしてチェ-ンソ-を振り回した際、誤って半分サンに刺さったものである。
「………」
 また気まずすぎる沈黙が流れる。
「え、え-と……ジェイミ-、君? 君はどういうわけで来たのかい?」
「はっ!? えっ………」
 途端、僕の額からドバァ--っと変な汗が吹き出た。
 ま、まさか『実はあなたを捕らえに来たんですぅ〜。あはっ☆』なんて、口が裂けても言えない。絶対言えない。
「そう……ですねえ。ちょっと『素巴伊学園』っていう響きに惹かれまして……」
 何かありきたりな理由だなと自分で思ったが、まあいいや。どうせこの場を乗り越えられればそれでいいんだし。
「…………」
 また耳が痛くなるほどの沈黙が僕たちを襲う。
(や、ヤバイ。も、もしかして、自分イケナイ事言った!?)
「そっ……そうだよなあ! 素敵だよね素巴伊学園って!!」
「……はい?」
「まるでスパイを養成しているかのような素敵なネ-ミング! 素敵な当て字! 名前に似つかわしい校風! 築何百年の校舎! ここが日本とは思えない西洋風な外観!! どれを取っても素晴らしいとしか言いようのない学校じゃないか!!」
「……は、はあ………」
「そして何よりもこの風景! もうこれを絶景と言わずして、何と呼ぶべ……」
 がっしゃこ---んっ!!
 途端、半分サンの真上から金属製の豪奢な檻が落ちてきた。
「うわあっ!?」
「フハハハハハ! ついに捕らえたぞ半分サン!」
「神妙にお縄につくアルネ!!」
「き、キンニク! そしてリ-さん!!」
 上を見上げると、天井にぽっかりと穴が開いていて、そこからキンニクとリ-が覗いていた。
「き、キンキク君!? 何故私の名を………貴様っ、何奴!?」
「って、そろそろ気づけよ!」
 僕は半分サンの間の抜けた誰何(すいか)に思わずツッコんでしまった。
「フハハハハハ! 半分サン、てめ-はまだ判ってないのか!! オレは世界屈指の名高いスパイ、キンキクZだ!!」
「って、誰それ!? てかネ-ミングセンス悪っ!!」
「ネ-ミングセンス悪いって何だよ! いいだろ、オレの勝手だろジェイソン!」
「……ジェイソン? ジェイミ-君じゃなくて?」
 半分サンはキンニクの言葉にぴくりと反応した。まったく、鈍感なんだか敏感なんだか。
「おっせ-よ! そう、コイツはジェイミ-じゃなくてジェイソンだ! そしてオレはキンニク、こっちはリ-だ!!」
「きっ……貴様ら、私を欺いてっ……!!(悔)」
 半分サンは歯ぎしりした。
「はっ! 檻の中でくやしがったってもう遅ぇよ! オレたちはてめ-がここに来てるって情報を入手して、新入り模型としてここに潜入したんだ。でも何だか上手くいかなかったから、ジェイソン(こいつ)を囮にお前の気をそらし、その間にオレたちが鉄製の檻をちょうどてめ-の頭上から落としたってワケさ」
「って、僕囮だったんですか!? ちょっ、それあんまりにも酷いじゃないですか!! だから『伊豆の囮〜(スパイ)大作戦』?」
「くっ……こざかしい真似をっ……!!(悔悔)」
 僕のそういうツッコミをものともせず、半分サンはぎりっと歯噛みし叫んだ。
「はは、てめ-の無防備さをうらむこったな!」
 キンニクが勝ち誇ったように高笑いをしていると、急に半分サンの口の端がつりあがった。
「かかったな、キンニク!」
「何!?」
「キキ----!!」
 途端、どこからともなく黒い集団が現れ、奇声を上げながらキンニクとリ-を取り囲んだ。
「な、何アルカこいつら!! はっ、離すアル!」
「ハハハハハハ! 君たちの動きなぞ、十万年も前からまるっとお見通しだッ!(宣言)」
「じゅ、十万年はナイ! さすがにその頃は僕たちはおろか、半分サン、あなたも生まれてませんよ!! ……というかアレ、このフレ-ズどこかで聞いたことあるような……」
「君たちがここに来るであろうことも、すべて予期していたことだ! そこで私を捕らえようとすることもな! そこで私は彼らを雇い、逆に君たちを捕らえようともくろんだのだ」
「こ、この人たち……どっかで観たような……」
「……そう。ショッカ-軍団の皆様だ!!(紹介)」
「キキ-----ィ!!」
 ショッカ-たちは一斉に手を挙げて肯定した。
「さあショッカ-の皆さん、彼らを連れてゆきたまえ(指図)」
「……は!?」
「キキ------!!」
「ちょっ、待つアル! どこに連れて行くアルネ!?」
「え、ちょっ……や〜ん、そこ触らないで〜ぇ」
 キンニクが一人変なことを言ったような気もするが、とにかく二人は彼らを連れ去ろうとするショッカ-たちに抵抗した。
「フハハハハハ! 君たちはこれからヤフ○クにかけられるのだ!(高笑)」
「やっ……ヤフ○ク!?」
「ヤフ○クって何? あの顔面真っ白で豆ツブみたいな眉した下膨れオバサンのことアルカ?」
 ……その場にいた全員(ショッカ-の皆さんも含む)がズゴゴォ---ッとずっこけた。 「それはオタフク!! --あの超有名大手企業YAH○O! がやってるオ-クションのことですよ」
「な、なるほど! ヤフ-・○-クションの略アルネ」
 ごほん、と半分サンが咳払いをした。
「と、ともかくな、君たちはこれから競売にかけられるのだよ。いくらの値段で売れるかは判らないが、そうとう年季が入ってるし、おそらく高値で売れるだろうな(ほくそ笑み)」
「てめえ……ッ」
「キキ----!!」
 ショッカ-軍団は勢いよく奇声を上げると、キンニクとリ-の身体を掴んだままだ--っと逃げていった。
 僕は彼らの連れて行かれた方向に向かって手を思いっきり伸ばした。
「きっ、キンニク! リ-さぁ-----んっ!!」
 しかしその手はむなしく空を掴んだだけだった。
 ただ、僕の声だけが、洋風の荘厳な廊下の中で木霊のように響き渡った。

「……こんなこと、してる場合じゃない」
『ヤフ○クは本日午後17時から始まる。ククッ、君の同胞たちが落札される様子をとくと見るがいい』
 半分サンはそれだけを言い残して、『さ〜て、いい病院でも探しに行くか』と呟きながら、どこへともなく去っていった。
 僕はそのツ-トンカラ-の背中をぼんやりと見送り、ただただ呆然としていた。
「落札できるだけのお金を調達できるかどうかは判らないけど、とにかくできることはしなきゃ」
「そうだな。額によっては、うちから出資できるかもしれない」
「--っ、理事長さん!?」
「これまでの経緯はすべて聞かせてもらった。--そうか、奴が入ってきた時期が時期だから、まさかと思ってわざと君たちにつけたのだが……やはりそうだったか」
「ていうかどうやって……理事長、忍者ですか?」
「いや。スパイだ」
「………え?」
 言葉の意味が飲み込めず僕が目を丸くしていると、絵夢愛は軽く笑い飛ばした。
「いやいや。--とにかく、私はできる範囲で君に協力しようと思う。しかし……オ-クションとなると、どれだけの金額を用意すればよいのか判らんな」
「ですね……そちらからはどれだけ出せます?」
「む……ざっとこのくらいかな」
 そう言って絵夢愛はどこからともなくマジックを取り出し、近くにあったホワイトボ-ドにさらさらと数字を羅列した。
「---っ!?」
 その数字を見て、僕の目がこれ以上ないほど大きく見開かれた。
「すまない……これだけしか用意してやることができん」
「すすすすまないじゃないですよッ!! こ、これだけあればあいつらを取り返すだけじゃなくて僕たちの学校をホグ○-ツ風に改築できちゃいますよ!」
「そうか? さすがに改築はムリだろう」
 そう呟いて絵夢愛が小首をかしげたのを見て、僕は涙を流しながらぐっとこぶしを握り締め、高ぶる感情を必死にこらえた。
「〜〜〜〜〜ッ!! 金持ちって……金持ちって………!!」
 そんな僕の様子をものともせず、絵夢愛はぱんと手を打った。
「まあ、気を落とすな。オ-クションは今日の午後五時なのだろう? そろそろヤフ○クのホ-ムペ-ジに行かないと間に合わないぞ」
「はっ!? えッ!? も、もうそんな時間……」
 僕が理事長の言葉に慌ててホワイトボ-ドの上にかけられた時計を見ると、もうすでに午後四時五〇分を回っていた。
「いっ、急がなきゃ!!」
「まあ、そう焦ることはない」
「焦ることないって……あと一時間ですよ!?」
「もうエントリ-してある」
「……へ?」
 パチン!
 絵夢愛が指を鳴らすと、二人の黒子が突然現れ、パソコンを絵夢愛に差し出した。
「わっ!!」
「『人体模型キンニクバ-ジョン&天球儀模型中古品☆理科模型コレクション』……だそうだ。開始時の値段は一万円だったから、とりあえず最高入札額を五十万円にしておいた」
「って、早! しかもいきなり五十万!? 高くないですか!?」
「まあ、こんな薄汚い模型をそんな高額で買う奴がいるわけないだろう。このまま行くとおそらく私が最高額入札者に……」
 パッ  途端、現段階の最高入札額の表示が動いた。
 その値を見て、僕たちは唖然とした。
「……百万円、だと!?」
「はぁ!? 誰がこんな薄汚れた模型をそんな高額で……」
『入札者:トム・ク○-ズ』
「…………はいぃ------ッ!?」
 僕は思いもよらぬ名前が出てきたので、思わず画面にがっついてしまった。
「いやいやいやいやありえないって!! 何でトム!? 確かにMIシリ-ズの主役ですけど、全然関係ないでしょ! つ-かトム、何でこんな薄汚いど-でもよさげな模型をこんな高額で買おうとしちゃってるの!?」
「トム……まさか、お前が………」
「って、理事長さ-んッ!! え、もしかしてトムとお知り合い!? つ-か何で日本の一学園の理事長とハリウッド俳優がお知り合い!?」
「ハリウッド俳優? 違う違う。正式には『(トム)来図(クルズ)』と言ってな。私のヤフ○ク仲間だ。結構やり手だな」
「って、案外中国人!?」
「そうか……トムが相手か……これはなかなか手強いぞ」
「どれだけ手強いんですか!?」
「百戦練磨だ。パ○ツのゴムから果てはテロリスト愛用の銃まで、今まで彼が入札したもので落とさなかったものは何一つない。私も幾度彼に品を奪われたことか……」
「え!? それじゃ理事長、ダメじゃないですか!?」
「ああ。--じゃ、入札額を五百万円にでもしておくか」
「……って、跳ね上げすぎじゃないですか!?」
「トム相手ならこれくらいしないとな。--む、七百万か」
 すぐに値段を引き上げてきたトムに負けじと、絵夢愛も価格をどんどん上げていく。
「ちょ、理事長さん……」
 僕の制止を気にとめもせず、理事長はもはやヤフ○クの鬼と化していた。
「今度こそ、この獲物は私が頂く……お前になぞ横取りされてたまるか……」
「り、理事長ォォォォ!! 人変わってる!!」
「ああ……入札終了時間が迫ってきた……!!」
 表示を見ると、--あと一分を切っている。
「これからは時間との戦いになりそうだな、トムよ……」
 絵夢愛は苦笑いを浮かべながら数字を打ち込む。
 こうなればもう彼女はただのヤフ○クオタクにしか見えない。
「ああ、あと5、4、3、2、1……」
 僕がカウントダウンをし始めると、絵夢愛は数字を打ち込み、ありったけの力でマウスをクリックした。
「行っけェ〜〜〜〜〜〜〜!!」
 カチッ!!
『入札終了
 最高入札者:トム・クル-ズ』
「ああっ!!」
 絵夢愛のクリックは、わずかながら間に合わなかった。

伊豆の囮〜囮大作戦
     Ⅲ  

Home > Novel