「その人体骨格模型、羈旅」

  香猫さまより(for 2009.11.13(Fri))
『皆さんは、憑依という現象をご存知ですか?頼りにすること、よりどころにすること…
霊などが乗り移ること…… 今宵のお話は悪魔に乗り移られた少年の奇妙な物語です。
貴方を世にも不思議な世界へお連れしましょう——————』
「やべぇなぁ…悪魔に乗り移られるとか……ちょッ十字架用意しろよ!!」
 今までおとなしく『世にも○妙な物語』を読んでいたキンニクが、騒ぎだした。
「無理ですよ。ここ、どこだと思ってるんですか!?」
 はぁっと盛大な溜息をつくと、視界を隣でぎゃあぎゃあ騒ぐキンニクから自分の脚元へと移した。
「なんで僕ばかり、こんな目にあわなければいけないんですか……」
「おい、ジェイミー!せっかくの遠足なんだぜ!?楽しまなきゃ損だろ。ホラ、オレのおやつやるからさ〜」
 窮屈なうえに周りは浮足立ってとてもうるさい。僕のイライラは募るばかりだった。
「ジェイミーじゃなくて、ジェイソンです!!それに、こんなの楽しめるわけないでしょーが!」
 僕たちは今、遠足に向かうバスの中にいる。そう、今回もキンニクの思いつきで学校の遠足についてきてしまった。
「なにカリカリしてんだよ!カルシウム足りねーんじゃね?あ、カリッコ食う?」
「いりませんよ!!だいたい誰のせいで、カリカリしないといけない状態になってると思ってるんですか!?もし、生徒や先生に見つかったらただじゃ済みませんよ!?!?」
 すると今まで五月蠅かったキンニクが、急に静かになってショボンとしてしまった。
(あ、ちょっと言い過ぎたかな……)
「……ごめn」
 僕が謝ろうとすると、キンニクは目がしらに手を当て鼻をすすりだした。
「……君を巻き込んでしまったことを……悪かったと反省している。本当に…………すまなかったッ!!」
 キンニクにしては、珍しく謝ってくれた。・・・ジャ○ク・バウアー風に……。
「ッて、お前まだソレやってたのかよ!!」
「———ほんとーに……すまなかったt」
「もういいですよっ!!!!着いたみたいだから、さっさと降りますよ!」
「おっ!やっとその気になったか、ジョンソン!!」
 キンニクにツッコみもせず、僕は動物園内に入っていった。

* * *

「あら、ジェイソンじゃない。あなたも来てたのね。」
 聞き覚えのある声の方向を向くと、同じ模型仲間の内臓サンがいた。
「あれ?内臓サンも来てたんですか?」
「ええ。だってせっかくの遠足だもの。私は、他のクラスのバスに乗ってきたのよ。それより、キンニクは一緒じゃないの?」
「そうだったんですか。ああ、アイツは…」
 僕と内臓サンが談笑していると、遠くからこちらへ走ってくる人影?がいた。
「お〜い!!置いていくなよ、ジャクソン!!」
 遠くからでもわかる、赤と白のコントラスト。
「あっ!キンニク!!やっぱりあなたも来てたのね。」
 ウキウキと話す内臓サンとは対照的に、キンニクに返答もせず僕は、全身からイライラしたオーラを放出した。
「おい!ジェイソンってば!!」
 不穏な空気に気づいたのか、内臓サンは慌てて僕とキンニクに話しかけた。
「ね、ねぇ二人(いや、二体?)とも。何処から見て回る?
 時間もないことだし……」
「そ、そうだな。よっし、順番どおりに見てまわろーぜ!」
「ジェイソンも行きましょう?ね?」
 内臓サンに背中を押されて(つーか内臓サンってどうやって移動するよ?)しぶしぶ歩きだした。

* * *

「きゃぁ〜ッ!!キツネ、カワイイわvもふもふした〜い♪」
「おっ!みろよあのクマ。バット回すんだぜ!!スゲーな!」
 思いっきり動物園をエンジョイしている二体をよそに、僕はあまり乗り気ではなかった。
 寒すぎる。
 どんよりとした灰色の空からは、いつ雨が降り出してもおかしくない。
 遠足を楽しむどころではなかった。
「さ、さむッ」
「ジェイソン、あなた大丈夫?」
 僕の呟きを聞いた内臓サンは、僕の顔を覗き込んで(出来んのかッ!?)心配そうな顔をした。
「あ、大丈夫ですよ。気にしないでください。」
「お〜い!ジェイソン、楽しんでるか!?次、行こうぜ!!はやくはやく!」
 どうやら、この筋肉バカ(筋肉バカって(笑))は空気が読めないようだ。
「え?ちょっとキンニク……って待ってよぉ〜!!」
 内臓サンの静止も空しく、キンニクはダーッと走り出した。こんな広い園内で迷子になったらおしまいだ。急いで、僕たちもキンニクの後を追いかけた。

* * *

「はぁはぁはぁ……ッキンニク!!」
 やっとキンニクに追いついた。彼は、トラの檻の前でぼぉ〜っと見ていた。
「ちょっ!おまえ、迷子になったらどーする気なんですか!?」
「そうよ、キンニク。急に走りだしたから、びっくりしたじゃない!」  内臓サンと僕が話しかけても、キンニクは一向にこちらを向かなかった。
「ヒトの(つーか、模型?)の話聞いてんすか!?」
「嗚呼、何というつぶらな瞳……」
『え゛ッ!?』
「見た事も無い、鮮やかな縞模様…柔らかい耳……」
「ええッ!?!?!?ちょっと、キンニク 大丈夫か!?」
「ジェイソン、どうしましょう?寒さで脳みそ(ってかあるのか?)がやられたのかしら?」
 目の前にいるのは、たしかにキンニクのはずなのに………
「おやおや、お二人とも如何されたのです?」
「ねぇ……キンニク。あなた、冗談でやっているのよね?」
 おそるおそる内臓サンが尋ねると、キンニクだと思しき骨格模型は背筋を正して答えた。
「冗談……?申し訳ありません、私には何のことかさっぱり・・・それよりも、ここは寒いですからどこか暖かい場所へいきませんか?」
 唖然とする僕たちを促して、キンニクは休憩所へと歩きだした。・・・実に優雅に……

* * *

「あぁ…寒いわ……」
 本当に寒さからくるものなのか、それともキンニクの気持ち悪さからなのか 内臓サンはカタカタと震えていた。
「おや、それはいけませんね。少々お待ちください。紅茶でもお淹れいたしますから。」
 そういいうと、キンニクはどこかへ去っていった。
「ねぇ、ジェイソン。あのキンニク、どう思う?冗談だと思う?」
 キンニクの姿が見えなくなると同時に、内臓サンが顔をよせてヒソヒソと尋ねてきた。
「アイツのことだし、冗談なんじゃないですか?紅茶淹れてくるとかいって、午後ティー買ってくるだけですよ」
 そんな事を話していると、キンニクが帰ってきた。……茶器をもって。
 どっから持ってきたんだよ!!
 とのツッコみを言葉に出せず、僕も内臓サンもポカーンと口を開けたままキンニクを見つめていた。
「そ、それどうしたの?」
 ますますカタカタと震えながら内臓サンが尋ねた。
「嗚呼、これですか?どんな場合でも紅茶が飲めるよう常備しております。だって、私は・・・」
『わたしは……?』
 固唾をのんで、聴き入る。
「私は……あくまで執事ですから。」
『は?』
 キンニクの口から紡ぎだされた言葉の意味が解らず、ますますポカーンとする。
「ぱ、ぱーどぅん?」
 内臓サンなんて、理解しきれず英語で聞き直してる。
「お、おい止めろよキンニク!おまえ、どーせ仕返しのつもりなんだろ!?僕が口を利かなかったから」
「いえ、私はあくまでしつz」
「ああ、やめましょう!せっかくの紅茶が冷めちゃうじゃない」
 永遠ループしそうな気配を察して、内臓サンが僕たちの間に割って入った。
「そうですぇ、せっかくの紅茶ですし……」
 内臓サンの一言で、キンニクはティーサーバーからそれぞれのカップに紅茶を注ぎはじめた。
 それと同時に広がる、紅茶のいい香り。
「わぁ…いい香りね」
「ええ、そうでしょう。本日はトワイニング社のプリンスオブウェールズをご用意いたしましたダージリンウバにならぶ三大茶葉の一つキーマンをベースにしたパーソナルブレンドでございますその高貴な香りは蘭の花に例えられますまた香りや味わいから紅茶のコニャックとよばれることも嗚呼こんにゃくではございませんよそれから現代ではノーベル賞の授賞式の晩餐会で出されるほどの人気で・・・・・」
 嵐のように紅茶について語りはじめたキンニク。とても違和感がある。
「えっ?えーっとこんにゃく?」
「こんにゃくではございません。コニャックです。」
 僕はその時、確信した。キンニクは冗談でやってるんじゃないと……
 紅茶を飲み終わると、いそいそとキンニクは片付けの為に席をはずした。
「あの…内臓サン。どう考えてもキンニクは冗談でやっているようには見えないんですけど………」
「私も思ったわ。だってキンニクがあんな知識を持ってるわけないですもの。」
 どうやら内臓サンも同じ意見らしい。
「いったい、どうしたのかしらね?」
「あ、そういえば……」
 僕は、行きのバスでキンニクが読んでいた『世にも○妙な物語』の話を思い出した。
 そのことを内臓サンに話すと……
「あ、それ私も聞いたことあるわ。
 たいてい ああいうのって相手が満足すると剥がれちゃうのよねぇ〜・・・よし!ジェイソン、やるわよ!!」
「え?やるって、なにをですか?」
「なにって……黒○事ごっこよ!」
「ええ!?なんですか、それ!?」
「あなた、さっきのキンニクの話聞いてなかったの?彼、『あくまで執事ですから』って言っていたじゃない!この決めゼリフっていったら黒○事しかないじゃない!!」
 今度は、内臓サンまでおかしくなったんじゃないかと ハラハラしてきた。そんな僕をよそに、内臓サンは何なぜか楽しそうだ。もう、目が爛々としている。
「じゃーあなたは坊ちゃんね。シ○ル・ファントムハイヴ!で、私は〜うふふ そうね赤○事ってところかな?」
「えぇ!?話すすむの早ッ!!ってか、坊ちゃんって……なんで僕なんですか!?!?そもそも黒○事って・・・」
「ん〜もう!トロいんだから!あなた、キンニクを助けたいんデショ?だったら、つべこべ言わずにやるの!!」
「あの〜なんか内臓サン、キャラかわってない?」
「これが、普通DEATH★」
 ・・・・暴走気味の内臓サンを落ち着かせて、黒○事の大まかな説明と作戦を立てた。
「いい?分かったかしら?いよいよ作戦決行DEATH★」
「はい……」
 僕は、不安を抱きつつも内臓サンに従った。

* * *

 ほどなくすると、キンニクが帰ってきた。
「申し訳ありません、少々手間取ってしまい遅くなりました。」
「ふんっ…お、おまえらしくないな(こ、こんなカンジ!?)」
 内臓サンとアイコンタクト(ってか目あるのか!?)を取りつつ必死に演じてみる。
「……?おや、どうされたのです?」
「どうもこうも、ないだろう?おまえの主人は、この僕。シ○ル・ファント……ト…ハイヴだ!!」
「(あ、ムがないわよ!ファントムハイヴ!!)」
「あっ…ファントムハイヴだ!!」
 驚いた表情をみせるキンニクをよそに、ヒソヒソと内臓サンに話しかける。
「こんなんで、ほんとに大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ!キンニクだって驚いた顔してるわ。よし!今度は私の番ね。」
「あ〜ら、お久しぶりね

  キ・ン・ニ・ク

 もうっあなたの事、真っ赤にお化粧してあげたくなっちゃうわ(いや、元から赤いだろ)ねぇ〜いいでショ?」
 いやに乗り気な内臓サンは、ジリジリとキンニクに歩み寄りながら迫真の演技をした。
「え?いきなりどうされたのです?ふたりとも…(苦笑)」
「ん〜もうっ!あんなガキンチョの事はどーだっていいでショ!?アタシだけを見てよ!」
 さらに、ジリジリと内臓サンが詰め寄る。
「いえ、私はそのような趣味は……(汗)」
「も〜照れちゃって!」
「ですから、私にそのような趣味は(汗汗)」
 演技なのか、それとも本気なのか…内臓サンに詰め寄られて、さっきからキンニクは・・・
「あれ?」
「ん〜?どうしたのよ?ジェイソン・ファントムハイヴ?」
「ッて、勝手に改名させないでくださいよ!!つーかさっきから、キンニクの語尾に見覚えがあるものが…」
「いえ、ですから・・・・(焦)」
「まさか……おまえ!?!?」
 僕が、カッコよく真相を述べようとした時 すさまじい突風が吹き荒れた。
 その瞬間—————————
 ポロっ……ポロポロポロっ………
 キンニクについていたはずの筋肉が、片方だけ綺麗に剥がれ落ちた。
 僕たちの目の前には、見慣れた模型・・・・・
『あ———ッ!!!!!半分サン!?!?!?!?!?』
 そう、諸悪の根源はコイツといってもいい やたら語尾に()をつける模型、人体模型半分バージョン、通称半分サンがいた。
「チッばれたか(残念)」
「なんで、半分サンが、こんな所にいるんですか!?」
「い、いーじゃないかッ!!私だって、遠足くらい皆と仲良く行きたいさ(泣)」
「そんなの知らねーよ!!普段の行いがわるいんだろ!!つーか、キンニクは!?!?」
「ああ、キンニクか……さぁな。もふもふの刑にしてやったから、今頃生きているかどうか(嘲笑)」
 僕の脳内に、嫌な予感がよぎった。いや、キンニクに限ってそんなことは……
「もふもふの刑ってなんなのよっ!!」
「それは……もふもふした刑だ。ああ、そろそろ別れの時間だ(悲)それじゃ、さらばだッ(逃)」 「それ、説明になってな———逃げんなっ!!!」
 僕の静止も空しく、半分サンは瞬く間に逃げて行った。
「ねぇ、ジェイソン。キンニクは大丈夫なのかしら?」
 泣きそうな顔で内臓サンが尋ねてくる。
「きっと……キンニクなr」
「お〜い!!!ジョーカー!!!」
 ふと、耳を澄ますと懐かしい声が聞こえた。しかも、だんだんとその声は大きくなってくる。
『キンニク!!』
 そこには、待ちわびた模型の姿。
「わりぃな。ふれあい広場のウサギ達にもふもふの刑にされててよ。あいつ等すっげぇもふもふなんだぜ!?もう可愛くって“フモッフ”って名前までつけて……って聞いてる?」
「バカ————ッ!!!!!どんだけ心配したと思ってんだよ!!」
 ポカポカッ キンニクの胸を叩きながら僕が言うと、
「ホントっ!!心配ばかりかけて……このっ!」
 ドカッ ……明らかに違う音だが、内臓サンも同じようにたたく。
「ぐはっ!?!?いったい何があったんだよ?」
 悶えながら尋ねるキンニクに今までの出来事を話した。
「そうか……そんな事があったのか」
 話を聞き終えると、キンニクは涙声になり鼻水をすすりながら謝ってくれた。
「皆に心配かけたこと……………ほんとーに……すまなく思ってる」
 ジャ○ク・バウアー風に………。
「ッてまだやってたのかよ!!!」
 本日2度目のツッコミは、秋空に空しく響いた。

THE END
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